カテゴリー
水泳

水泳の基本は、水中で体を真っ直ぐにすることである。

桂コーチのレッスンは進化を続けていた。
私が時折休んだりすると、
進化のスビードがますます速く感じられ、
あまりの勢いに「何のために?」とたずねる余地などなかった。

「体の中心線を真っ直ぐにして下さい」
その日のテーマは「真っ直ぐ」だった。

水泳の基本は、水中で体を真っ直ぐにすることである。
こうすれば水の抵抗が少なく、
スイスイと進めるというわけだ。

理屈は通っている。
私たちは、まだそれができていないらしい。
コーチによるとポイントは三つ。頭、尾てい骨、踵。

手足を動かしながらも、
この三カ所が一直線になるようにしなければならない。

足でキックを打つときも、
「蹴る」のではなく、
この直線上に踵を
「戻す」ように打つのである。

問題は、この直線が見えないということだった。

問題を感じ取ったらしく、
桂コーチはこう指示した。
「じゃ、その場で、思いっ切りジャンプして下さい」

私たちは水中に立った状態で、
水しぶきを上げながらシンクロのようにジャンプした。

めまいがした。
軽くジャンプしたつもりが、
ものすごい勢いで飛び上がったのである。

きっと浮力の助けを借りているのだろう。
私の視点は水面から高く上がり、
今まで見たことのない角度からの水の様子が目に入ってきた。

水を見下す感じ。
慣れてくると、
トランポリンで跳ねるようで実に気分がよい。
「ヤッホー」と叫びたくなった。

「す、すごい、飛べます」
私が歓声を上げると、桂コーチが説明した。

「でしょ。ジャンプの時、頭、尾てい骨、踵は常に一直線になっています。
屈む時も飛んだ時も。そうしないとジャンプできません。
私たちは無意識のうちにそうしているんです。
これが”真っ直ぐ”ということなんです。」

桂コーチは水から上がってプールサイドに立ち、ジャンプを実演した。
曲がるのは膝と肘だけで、
中心は美しいー直線だ。

つまり、この姿勢を横向きにすればよいということなのである。

「わかりましたね。じゃあ、行って下さい」
ずっとジャンプを繰り返していたかったが、
桂コーチはすぐ実践である。

水中に人った途端、わからなくなった。
縦の「真っ直ぐ」はわかったが、
横の「真っ直ぐ」はわからない。

天井ヘ向かってジャンプする「あの感じ」と、
今の「この感じ」は本質的に違っているようで、
照合できないのである。

泳ぎながら、真っ直ぐ?と自問自答すると
「何を基準に?」という疑問が頭をよぎる。

そして、そもそも水中には何も依って立つものがないことを思い出し、
不安にかられた。

そこで、「せめて足だけでも確認したい」という切なる願いから立つ。
「真っ直ぐ」を追い求めると立たざるをえないのである。

「真っ直ぐ」は依存性が高い。
どこかがしっかり固定されていないと、
私は「真っ直ぐ」になれないのである。

「私もそうなの」
生徒の最高齢、浅倉さんが声を裏返して言った。

「ですよね」

「そう、”真っ直ぐにしなきゃ”と思うと、ここに力が入っちやう」
浅倉さんはそう言って、右手の中指を立てた。

そんな所に力が入るんですか?
「そうなの。ここなの」

なぜなのか見当がつかないが、きっと彼女もどこかを固定したいに違いない。

「私は”真っ直ぐ”だと思っちゃうのよ」
隣の鈴木さんがカラカラと笑った。
彼女はコーチに何を言われても「自分はできてる」と思ってしまうらしい。

ゆえに、どこにも力が入らない。
完全に自立しており、見習うべき自信である。

「お尻を締めればいいのよ」
藤田さんがアドバイスしてくれた。

「お尻ですか?」
「そう」
私はその場でお尻に力を込めた。
なにやらのけぞる感じがする。
「そうじやなくて、肛門を締めるのよ」

「こ、肛門ですか?」
私は、おならを我慢する要領で肛門をを締めようとした。
しかし水圧のせいか、ちっとも締まる感じがせず、
全身に力を込めるうち、前傾姿勢になってしまった。

私はいったんプールから上がり、
プールサイドにうつ伏せになって横たわり、
「真っ直ぐ」な状態を確認した。

そして、そのままアザラシのようにずるずると水に入り、
体に定規をあてる要領で、
プールのヘリに張りつきながら
「真っ直ぐ」を維持しようとした。

しかし、同じうつ伏せ状態でも、
陸上と水中では感覚が全然違う。

「真っ直ぐ」以前に、陸上は夕イルが硬くて痛い。特に顎が。
水中ではどこも痛くならないが、
体が溶け出すように自分の姿勢がわからなくなる。

女性たちはこのあたりに疑問を感じないのだろうか。

「根性が曲がってるんじゃないの?」
服部さんが、笑いながら指摘した。

「根性?」

「性根、よ」
そこまで言われる筋合いではないが、

こうしてコーチの指導にいちいち立ち止まる私は、
やはり根本的に
どこか曲がっているのかもしれない。
引用元
はい、泳げません

常識や間違いを一つ一つ排除し、
水泳上達に効果のあるものだけを積み重ね、
10年という年月をかけて完成したのがこの方法なのです。

(「キングコング」怪獣から逃げ回るナオミワッツ。)
こちらからもお届けしてます。
友だち追加

アンテナサイト

にほんブログ村 ニュースブログ 話題のニュースへ
にほんブログ村


人気ブログランキング


アダルトブログランキング


早く始めて慣れることにこだわるより、
泳げるようになるポイントは他にあることが分かってきました。

(「キングコング 」コング・怪獣・ナオミワッツ、間一髪の連続でコングに惚れちゃう!)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です